技術の問題として認識されがちなデジタルトランスフォーメーション(DX)ですが、本質は人口減少とモノ余りの構造変化にどう対応するかという問題です。
手段としてのDXが目的化しないよう改めて企業目線からDXとは何なのか、何故重要なのか、何から始めるべきか?を考えてみたいと思います。なお対象企業として、スタートアップやインターネット企業ではなくオフラインが事業の中核であるB2C、B2B企業を想定しています。
DXとは何か?
「デジタルトランスフォーメーション」とグーグルで検索するとウィキペディアの定義が出てきます。2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」と提唱したそうです。
また、経済産業省は以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
これらを踏まえつつ、私は当事者である企業目線でDXを以下のように考えています。
「企業がデータとデジタル技術を活用して、顧客価値と生産性を飛躍的に向上させ、競争優位を確立すること。」
つまり目的は顧客価値と生産性の向上による競争優位の確立であり、その手段として、データ、デジタル技術を活用する、ということです。
何故DXが重要か?
自社にとってDXが必要なのか?を考えるために、まず、いま何故、DXが重視されているかを確認してみると役立つと思います。
DXがなぜ重要か?という問いを、2つに分解してみます。1つは、競争優位を確立するために、なぜ顧客価値と生産性を高めることが必要か?、もう一つは、その手段として、データとデジタルが有効か?という問いです。
なぜ顧客価値と生産性を高めることが重要か?
その理由は「人は減り、物やサービスは余る」という社会構造の変化です。日本の市場でBtoCビジネスを営むにあたり、この影響を受けない企業はないでしょう。BtoBにおいても程度やスピードの差こそあれ無縁ではありません。
この変化によりなぜ顧客価値を高めることが重要になるのか?
物やサービスが余り社会が成熟した状況では、足りないものを補い機能的な満足を得る消費から、精神的な満足感を得るための消費となります。この結果、BtoC企業からするとどうすれば消費者が満足するかが曖昧になります。これまでもCS経営、お客様第一主義の言葉に現れるように、お客様の不安・不満を減らし、満足をあげることに取り組んできました。しかし、昨今では満足を上げるためにまったく別なアプローチが必要になってきているのです。このところ、広くデザイン思考が注目されているのはこのような背景で、共感をもとに潜在ニーズを探ろうとするアプローチです。またサブスクリプションビジネスは消費者が便益を受けやすくし収益を得るアプローチです。
BtoB企業においても顧客体験が重要になります。BtoBの場合、調査や評価の段階での情報入手に対する期待値がたかまります。普段消費者として使っているアプリやサービスと同等の期待値を無意識に持ち、バーが高くなることは自身のこととして想像できると思います。
次になぜ生産性を高めることが重要なのか?人が減るため業務を効率化する必要があるのはその通りですが、加えて2つの理由が重要です。
一つ目は、顧客体験を高めるために仕事の量が増える一方で、質を上げる必要があるこです。より個人の好みに応じてサービスや製品を細分化し、ストーリーを伝える、アフターサービスをする等のひと手間が重要になります。製品・サービス開発、マーケティング、セールス、サービス全てにおいて変化が求められます。
二つ目の理由は、将来にわたり人材を獲得・維持するために業務を効率化しておく必要があることです。定型業務や達成感が得られない仕事には誰もが不満を抱えるでしょうし、若手や有能な人は転職していくでしょう。(転職意識のデータを入れる)その意味で生産性の向上は従業員にとっての価値向上と同義です。
どのくらい緊急なのか?
さて顧客体験と生産性の向上が重要だとしてどのくらい緊急でしょうか?
ビジネスにおけるWebやアプリなどのオンラインの影響が大きい業界ではすでに消費者による選別が始まっていると考えた方がいいでしょう。同業他社との比較ではなく、アマゾンやNETFLIXなどのトッププレイヤーとの比較が無意識にされるためです。BtoB企業においても情報収集の段階での利便性に対する選別の基準は高まっています。
また顧客体験の向上はオフラインでも重要なことは変わりなく、全ての業界において、競合がリードしている場合は脅威となり、そうでない場合は競合に先んずる機会として緊急性は高いと言えるでしょう。
「デジタル・ビジネスモデル(日本経済新聞出版社)」によれば413人のCIOが平均して28%収益が今後5年以内にリスクにされされていると回答しているそうです(MIT CISR 2015 CIO Digital Disruption Survery)。 これは2015年の米国での調査ですが、デジタルやITに関して5~10年米国に遅れている日本(これは私の感覚ですが)の状況に当てはまると見ていいのではないかと思います。
なぜデータとデジタル技術の活用が有効か?
さてなぜ、データとデジタルなのか?これまでのシステム投資はしてきたはずで何が違うのでしょうか?顧客体験と生産性を高める手段として以下の点がデータとデジタル技術活用の重要なメリットだと考えます。
- 顧客と収益の洞察が得られる・・・オンラインやオフラインでの顧客行動データ、設備の稼働状況など、捕捉できるデータが爆発的に増えた事で、様々なことを把握、分析することが可能となりました。とりわけ顧客と収益への洞察が顧客体験や生産性向上に有効になります。顧客理解に基づいた商品開発やマーケティングの試行錯誤、収益の先行指標に対するアクションの量と質を高めることが出来るようになったのです。
- 顧客と常時繋がれる・・・スマホを代表とするモバイルによって顧客と常時繋がる状態を提供することが可能となります。マーケティング手段として活用するだけでなく、顧客が好きな時に、好きな方法で、好きな事ができる顧客体験を提供する事が競争優位性の向上に重要です。
- ロングテール業務の自動化が出来る・・・企業は省力化、自動化はかねてより取り組んできましたが、費用対効果が見合わない細々としたマニュアル作業が残されています。システム間連携や、企業間取引におけるエクセルワーク、紙からの転機といったロングテール業務を自動化するソリューションが実用化されています。業務時間削減よりも、付加価値業務に費やす時間と思考を増やすことによる生産性向上を目指すものです。
データとデジタル技術の活用で十分か?
顧客体験、生産性の向上にデータとデジタル技術活用は有効ですが、それだけでは不十分なことは容易に想像がつくところです。新たな収益モデルの構築、組織、プロセスやカルチャーの変革など部門をまたがる変革が求められる、と異口同音で語られています。また一度変わればあとは安泰というものではなく、変わり続けることが必要になるでしょう。
何から始めると良いのか?
では御社のDXはどこから始めたら良いでしょうか?まず始めに明確にすべきは変革目標です。顧客価値の観点で強みを生かしどう競争優位を強化するか、競合の脅威に対してどう対処するか、これら変革目標を設定しない限り成功の条件も明確にならず、結果、何かが変わったが成功したと言えるかどうかわからない状態になるでしょう。
どうしたら変革目標を設定できるのか?そのためには現状認識と危機感が必要です。大規模な変革が必要だとしたらそこには”止めるべき何か”があるはずです。現状に満足している状態では変革は始まらないか、すぐに挫折します。変革というと何かを始めることに目がいきがちですが、何を止める必要があるのか?それな何故か?この点を明確にしていない取り組みを沢山見てきました。そうすると現状のままで大丈夫だろうという意識が変革を困難にさせます。もし現状維持で問題ないのならわざわざ大掛かりな変革に取り組む必要もないのです。
「経営トップのコミットメントが必要」とはよく言われる事ですが、それは具体的に何のことなのかピンとこなくありませんか?止めるべきことを明確にし、それを今やらねばならないとどうなるか危機感を醸成することが最初にやるべきことです。ジョンPコッターが「企業変革力」で書いていますが、危機感を高めることが大規模な変革の最初のステップで、この点はデジタルトランスフォーメーションにおいても変わりません。
最後に~どう進めると良いか?
ジョンPコッターが「企業変革力」で示す大規模な変革の8つのステップが参考になります。4つのフェーズに区分して変革プロジェクトのステップを示します。今後、成功の要件を考察していきたいと思います。
- PLAN:1. 危機意識を高める、2. 変革チームを編成する、3.ビジョンと変革目標を設定する
- ACTIVATE:4.ビジョンと変革目標を周知徹底する、5.従業員の自発を促す
- CONTROL:6. 短期的成果を達成する、7.さらなる変革を推進する
- END:8. 新しい方法を定着化する
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