AIスーパー「TRIAL」に行ってみた

兼ねてから気になっていた、AIスーパー「TRIAL」が近くにできました。ディスプレイが付いた「レジカート」を使ってその場で会計ができたり、お勧めやクーポンを教えてくれたりするらしい。どんな事になってるの?ということで体験してきました。

トライアル/千葉に関東初のスマートストア「長沼店」オープン | 流通ニュース

九州発のAIスーパー「TRIAL」

TRIALといえば、ディスカウントスーパーでありながら中国にAIエンジニアのチームを抱え、「買い物の仕組みを変える」ことをミッションに掲げるトライアルホールディングスが運営する次世代のスーパーです。年10%~15%で売上を増やしており、2020年度で5000億(非上場のため会社HPより)の売上高を見込んでいます。成長してますね。

トライアルホールディングスの亀田晃一 代表取締役はインタビュー記事で、2018年9月の時点で、AI/IoTを活用して第4次産業革命を起こすと答えています。利益を抑え、投資に回して顧客体験をよくするスタンスはアマゾンにも通ずる所があります。インタビューでもEC体験をリアル店舗で実現すると答えています。実際にどんな売り場になっているのでしょうか?早速みてみましょう!

One to Oneマーケティングをリアル店舗で

土曜日のお昼すぎ、高速道路を30分走り、お店に到着。やたら広い駐車場に車を止めて入り口に向います。道すがら、買い物を終えた人が押してるカートを見ると、ありました、噂のタブレット付きのカート。他の人を見ると普通のカートを押している人もいます。どうやら普通のカートとタブレット付きのカートの両方があるようです。

タブレット付きの「レジカート」

入り口に到着。高鳴る鼓動を抑えつつ(笑)、お目当てのタブレット付きのカートを探します。ありました!「レジカート」というようです。画面に「お買い物を始める」とボタンがあります。ボタンを押すと会員カードを読み込ませる必要があるようです。なるほど、誰が買い物しているか紐付ける魂胆だな笑。

えーと、会員カードはどこで作ればいいんだ。こんな時はすぐお店の人を捕まえて教えてもらいます。その方がいろいろ聞けるので。ちなみに同じように初めての人が何人もいて写真を取ったりしてたのできっと私と同じ取材目的なのでしょう笑。

まずは顧客を知る事から

千里の道も一歩から。One to Oneマーケティングは顧客を知ることから、ということでしょう、レジカートを使うために会員カードを作ります。

会員カードはタブレットで会員情報を入力します。会員カードのバーコードを読み込んでから会員情報を入力していきます。こうするとその場で会員情報とカードがデータで紐づくという仕組みですね。会員情報には以下にある基礎的な属性情報を登録します。この時点で普通のスーパーより詳しくお客様を理解しているわけですが、これに関連づけてどんな情報を取る魂胆だ。そんな事を考えて楽しんでいるのは私くらいでしょう笑

  • 名前
  • 生年月日
  • 性別
  • 住所
会員カード。IC付きでプリペイドカードになっている。

お財布がわりの会員カード

私「会員カードができました!」店員さん「では現金をチャージしてください♪」私「はい!(・・・現金?)」

会員カードはプリペイドカードになっておりお財布代わりでもあるようです。入り口脇のキオスク端末でチャージができます。しかし「現金をチャージして下さい」と言われ、普段、現金をほとんど持ち歩かない私は焦ります。定員さんに聞くと、チェージする方法は現金とデビットカードだけとの事でした。

その日はたまたま現金を数千円持っていたので現金でチャージしました。セーフ!普段現金を持ち歩かない人にとってはちょっと不便ですね。しかし、大半のお客さんは現金派なので問題ないのでしょう。

プリペイドカードはポイントカードにもなっています。さらにマイナカードに登録するとマイナポイントもたまります。このポイント作戦は重要ですね。ポイント目当てのお客様を囲い込むだけでなく、会員カードで支払いをさせることで会員情報と購入したものが収集できるからです。ポイントサービスを使って誰が何を買ったかを取得する方法は、コンビニやユニクロなど大手小売では一般化してますね。

裏面。カード番号、PINコード。二次元バーコードを読み取ると残高が確認できる

(余談)電子マネー決済の裏に現金流通ありという話:マイナポイントは、マイナンバーカードと紐付けたキャッシュレス決済サービスで支払った場合にポイントが付与されるものです(決済金額の25%、上限5000円)。マイナンバーカードとキャッシュレス決済の普及を狙った施策ですが、現金でチャージしたプリペイドカードもキャッシュレス決済になるという事ですね。払う時点ではキャッシュレスでもチャージで現金を介すとなると、コストのかかる現金の流通は減りません。そうなると電子マネーの普及率を高める意味ってなんだろうか。

買ったものに合わせてオススメ

いよいよレジカートに会員カードのバーコードを読み込ませて店内にゴー。画面の下にある窓で商品のバーコードを読ませて買い物カゴに入れていくご作法です。(生鮮食品などバーコードがない商品は「バーコードが内容商品」メニューから商品を選んで買い物カゴに入れます。)

レジカート!赤枠にバーコードをスキャンして買い物カゴに入れる。すると電子カートにも入るデジタルツイン方式。大きな商品はスキャナーを取り外して使える。

早速、入り口付近にあったお菓子の山から、娘へのお土産に「ミニ濃厚チョコブラウニー」を選び、バーコードを読んでみます。ピッ・・・おお、いろいろなプリッツのクーポンが表示されました!しょっぱなからお菓子を買ったのでお菓子好き認定されたかもしれません笑。

クーポンを使うとポイントが対象商品を購入した際に5倍、10倍など増量されます。オススメで表示されるクーポンの他にも画面上で「クーポンを探す」事ができます。電子的にクーポンを出せるので、廃棄処分になりそうな食品や、会員に余分に買わせる(非計画購買を誘う)ために、いろんな使い方ができそうです。

「クーポンを探す」メニューからクーポンを選ぶと商品を買った際にポイントが増量される。

私のカートには何故がずっとプリッツしか表示されませんでしたが、唐揚げを買うとハイボールをレコメンドするなど、ECと同じようなオススメをするようです。店舗購入は8割が非計画購買(お店で買うものを決める)と言われており、小売店にとって顧客や売れ筋に合わせてレコメンドできる手段は画期的です。何度か来店しているうちにどんな変化があるのかも見てみたいです。

ちなみにクーポンを使うと選ぶと棚までナビゲートしてくれるのか!?と期待しましたがそういう機能はありません。まあ買い物に慣れてるお客さんなら難なく探せるでしょうからいらないのでしょう。フロアも広いので普段買わないものを知ってもらったり買ってもらったりするにはあってもいいかもしれません。

キャスレス決済ならぬシームレス決済

お会計は、3つの方法があります。

  1. レジで会計:お店の人が会計。4割くらいが利用
  2. セルフで会計:セルフレジで自分で会計。2割くらいが利用
  3. レジカート会計:レジカートで会計。4割くらいが利用

感覚値ですが半数は普通のカートを使っていました。普通に買い物に来てるだけの人が普通に使える選択肢を用意しておくことは大事ですね。3つのお会計方法のどれでも会員カードでお支払いができポイントをためる事ができます。これによって、普通のカートを使ってる会員についても何を買ったかがわかる仕組みです。

私はレジカートを使っているのでレジカート会計レーンにGo!レーンには店員さんが一人いて、画面の「お会計をする」ボタンを押すように言われます。私がボタンを押したのを確認すると店員さんがカゴから一品を取り出しバーコードで読み込んで何かを確認して、ゲートが開き会計終了です。この間、10秒くらい。あっという間です。

「お会計に進む」を押すとプリペイドカードの残高から引き落とされて支払い完了

おそらく店員さんが一品読み込んだのはサンプルチェックか何かでしょう。沢山あるうちの一品しか確認しないので性善説に立って簡略化しているのだと思います。これにより支払いを省略しているような体験になります。いわゆるシームレス決済で、キャッシュレス決済とは似て非なりです。

キャッシュレス決済はお会計時に現金をつかなわいという言わば点での効率化ですが、シームレス決済は面での体験向上です。商品を選んだ時点で目の前のカートとデジタルのカートに商品が入るのでお会計という行為なしでお支払いが済んでしまいます。そんなもの微々たる差じゃね、と思った方は、是非体験を!体験すると大きな差である事がわかる、はず。

データで稼ぐスーパーマーケット

次は少しお店の視点から見てみましょう。冒頭に引用したインタビュー記事でも語られているように、トライアルはAIやカメラを活用して売り場の状況を徹底的に見える化し、これを発注業務の自動化・効率化につなげています。

天井にはこれとわかるカメラやセンサーがついています。むき出し感がありますが高い位置にあるためかそれほど気になりません。商品棚にもIoTセンサーがついてるかもしれません。では、これで何を集めているのか?技術的には以下の情報を取れると思います。

  • お客様の導線:レジカートか通常カートかにかかわらずカートの位置をトレースして、導線や立ち止まった場所や時間がわかる。
  • 会員の導線:レジカートの場合、さらに会員と紐づけて行動がトレースできる。立ち止まって買ったか(バーコードを読み込ませたかどうかで判定)どうかどうかがわかる。
  • 売り場の状態:重さや画像で棚に何個あるか、品切れしていないかがわかる。売れるペース・時間や品切れした時刻がわかる。
天井には至るところにカメラが設置されている
カメラが剥き出しなのはどうなのかと思ったが、実際に行ってみるとそれほど気にならない

仮にこうした情報が取れたらどんな事ができそうでしょうか?売上向上や効率化ができそうです。どこかで読んだ記事では、王道とされていた棚割りを変更して売り上げが増加したそうです。

  • 棚割り最適化:放っておいても売れるもの、売りたいものの棚割りを試行錯誤して検討(結果に基づき試行錯誤ができる事が大事)
  • 店頭プロモーション効果検証:店頭のサイネージでプロモーションしたものが意図した通り売れてたか検証できる。これも検証できる事が大事
  • リアルタイムなレコメンド:会員の好みに加えて、居場所に合わせておすすめ商品を提案(試食コーナーで店員が「こちらいかがですか?」という代わりにカートが提案)
  • 売り場メンテナンスの効率化:商品陳列の乱れや品切れしそうな商品をリアルタイムに監視して、店員に教える(アラートがあるまで店員は忘れて他の仕事ができる)
  • 自動発注精度の向上:商品が売れるペースや品切れのタイミングから、自動発注の精度を向上

実際のデータ活用には、仕組化して一律全店舗に展開できるものから、各店舗で試行錯誤が必要なもの、その中間でフラッグシップ店でノウハウを構築してオペレーションに落とすもの、などが必要になりそうです。私が行った店舗よりお膝元の福岡の店舗の方が様々な実験をしてるのかもしれません。このような業務は従来の小売店には存在しないか、全く別なやり方でしょう。

こうした仕組みを自ら整備する体力がない地場のスーパーなどに対して、大手卸売が仕組み導入とオペレーションをパッケージ化して請け負うなど他業種のDXとしても考えられそうです。

オンラインとリアル店舗との融合に期待

さて以上がお店での体験レポートですが、オンラインサービスもあるか調べたところアプリがあるようです。当然これも試します。

ダウンロードするためにApp Storeで検索すると、やたら辛辣なレビューコメントが目立ちます。スコアは・・・これだけスコアが低いと逆に興味が湧きます。

実際に試してみるとレシピや購入履歴から買い物メモを作れたり(次の買い物の時にレジカートの画面に表示されるのかな?)、福岡市内限定ですが、配達や店頭受け取りもできるみたいです。操作性も普通でアプリ自体はそこまで酷い作りではありません。

次の買い物で忘れないように購買履歴やメニューから買い物メモが作れる
福岡の一部でしか使えないが、店頭手渡しやお弁当作り置きサービスがある
お待たせしないはサービスの基本

良い機能があるのに、なぜ評価が低いのだろう。コメントを読んでみると・・・なるほど。低評価の原因は会員カードの代わりに使えないという一点でした。アプリには会員カードを登録して、会員のバーコードやチャージの残高も表示されます。バーコードが表示されるので、これで会計ができると思ったら、アプリは会計では使えないと言われた!何のためのアプリ!?という反応です。

会員カードとあるので誰もがお店でカードがわりに使えると思ってしまう。App Storeのコメント欄によるとお店では使えない模様

これはプロダクト作りの上で面白い学びがありそうです。最小プロダクト(MVP)の考え方、ユーザー体験を担保する組織のあり方、信頼という資産の重要性、の3つについてまとめておこう。

MVPはユーザー期待値から考える:アプリ単体の機能は問題ないが、店舗と連動していないがためにユーザー体験を毀損して低評価になっています。会員カード代わりのアプリが普通になった今、アプリにバーコードが表示される時点で「会計に使える」という期待値(メンタルモデル)が出来上がっているため、「使えないじゃん!」となるという。お店には会計の際は会員カードをお持ちくださいと貼り紙があるそうですが、それはお店の理屈で逆効果です。メンタルモデルをベースに最小プロダクト(MVP)を定義・構築する事が大事だと。

ユーザー体験のガバナンスのあり方:トライアルホールディングスではアプリ開発している組織と店舗を運営している組織は別法人になっているようです。異なる組織を横断でユーザー体験を担保するにはどうすると良いのでしょうか?店舗運営側にCXオーナーをおいてアプリはその配下で開発するとかでしょうか。ガバナンスを効かせる仕掛けを作らないと、アプリと店頭の施策を連動をスケーラブルに展開するのは難しいでしょう。

信頼という貴重な資産:アプリのコメント欄ではアプリへのクレーム以外に「お店が好きなので残念」「お客さんを大事にしてない会社」など会社に対する信頼を毀損した旨のコメントもちらほらあります。ちょっとした事で失うのが信頼。一度信頼を毀損したらリカバリするのは大変ですし、信用できない会社には個人情報を渡したくない等できる事が制限されてしまいます。

という事で、アプリとリアル店舗の連携についてはまだ発展途上のようですが、色々便利な使い方が考えられるので今後の展開が楽しみです。勝手に欲しい機能を書いて締めにします。

  1. お店で使えるウォレット:店頭でアプリで支払いを可能にする。
  2. 電子マネーでチャージ:クレジットカードからのチャージや、Pay Payと連携してチャージできるようにする。
  3. 来店促進クーポン発行:お店に足を運ばせるクーポン発行(2回目来店を呼び込むクーポン、誕生月クーポンなど)
  4. お店の混在状況お知らせ:お店の混雑状況をリアルタイムにお知らせ。30分後、1時間後、時間帯別の予測。密回避やゆっくり買い物したい人のニーズに対応。
  5. ドライブスルー:アプリの買い物メモから「店頭引き取り」を選ぶとドライブスルーで買える(福岡では実現済)。

おわりに〜流通業界全体のDXへ

初TRIAL体験でまだまだ見れてない所がありますが「お買い物の仕組みを変える」とミッションの一部を知る事ができました。

トライアルHDは卸やメーカーとも協働して、店頭で得られたデータを活かしたサプライチェーンの最適化にも取り組んでいるそうです。店頭廃棄よりも流通過程での廃棄の方が多いと聞きます。流通業の効率化が一気に進んでいくかもしれません。

TRIALのような仕組みを自ら整備する体力がない地場のスーパーなどに対して、大手卸売が仕組み導入とオペレーションをパッケージ化して請け負うなど他業種のDXも考えられそうです。面で抑えている卸の強みがいかせます。逆に悠長に構えていると業界全体のデジタル化の流れから置いていかれる可能性も高いですね。

普通の生活がデジタルでどう便利になっていくか?という点で小売や流通業の動向は興味深いです。これからもアンテナを立てておこうと思います。

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