中国にデジタル観光に行ってみた

ニューリテール、OMO、アフターデジタルなど中国が一歩先行くデジタル化で話題になっています。一度見てみたいと思い、休暇をとりアリババの本社がある杭州にデジタル観光に行ってきました。私にとって初めての中国です。そこには日本ともアメリカやイギリスとも全く異なる体験がありました。

立ち寄った上海にて。9月末とはいえ真夏日。

多様性の国

今回私が訪れたのは杭州と上海で中国の中でも大きな都市です。そこは一言、文化の面での振れ幅が大きい都市でした。中心部から少し外れるとあまり清潔ではない道路や店が並ぶ一方で、中心街は商業施設が発達しています。

特にデジタル化による便利さは驚かされるものがあります。デジタル化が進んでいるというよりは、デジタルを意識することない程に「自然に便利」という感覚です。また、広い国土を生かした空間デザイン、店舗デザインはアメリカや日本にはない物でした。特に面白かったところを書いてみます。

新鮮だったこと

最初に初中国で新鮮だったことを書いてみようと思います。

極度のスマホ依存

兎にも角にもみんなスマホばかり見ています。電車に乗っているときはもちろんのこと、友達同士でお茶する時や家族で食事する時、常にスマホをいじってます。日本もここまでではないような・・・。よく出張で行くアメリカやイギリスではみたことない光景です。

食堂で食事する家族。ご両親の手にはスマホ

観光客風の人たちは、景色よりも、そこにいる自分をネットでどう見せるかを自撮り棒を構えて気にしてます。オフラインがない世界とはまずこのことだと、改めて気づかされました。

これだけ使っていると充電が足りなくなるのでしょう。街の至るところに充電器シェアサービスがあります。

スマホ充電器シェアのサービス
街中のいたるところに置いてある

徹底した個人情報管理

そして国による個人情報管理が徹底しています。顔認証と身分証明書で本人確認をしなければ高速鉄道の駅に入場もできません。観光客の場合は、チケットとパスポート。チケットには名前とパスポート番号が記載されるので譲渡はできません。

上海行きの高速鉄道チケット
パスポート番号と氏名が印字されている

中国ではとにかく全てにおいて国民番号が必要になります。電車に乗るとき以外も家を買う際や、進学する際。やろうと思えば、全ての行動や信用情報を国民番号に一意に管理できる状態です。一説には国民全てを顔認証で管理可能とのことです。

なぜそこまで管理するのでしょうか。かつて一人っ子政策を取っていた頃、戸籍に乗っていない子供が多くいたそうです。国民番号は戸籍を元に降り出すため、戸籍がない子供達は国民番号が得られず、生活していく上で様々な制約が課せられることになります。

日本では本人確認書類は運転免許証やパスポートなど様々な仕組みに依拠してますが、一つの仕組みを作ろうとすれば、国民番号と本人カードを作るのが自然なのかもしれません。

完全なる電子マネー社会

電子マネーは電車やお店の支払いなどあらゆる場面に浸透しています。そして、これが実に便利です。単にレジの前で現金の代わりに、スマホでピッとするだけではありません。支払う行為自体が無くなったように感じます。

例えばほとんどの飲食店ではテーブルのバーコードを読めばそのまま決済が済んでしまいます。注文と支払い金額がテーブルに紐づいており、決済される仕組みです。バーコード読み取りから支払い完了まで数秒です。

テーブルのバーコードをAlipayで読み込む
「PAY」を選択。テーブル番号が識別されている
「Pay now」を押して支払い完了

日本だと電子マネーで支払うにしてもレジまで伝票を持っていき、人がいれば並び、どの電子マネーで支払うかを伝え、ピッとする。これが無くなるのです。大した差ではないですが、実際に体験すると大きな違いに感じます。

アメリカの支払いと比べるともっと大きな差があります。アメリカのレストランではテーブルでクレジットカードで支払うのが一般的ですが、これが結構時間がかかるんですよね。改めて数えてみるとなんと4回も待たされるんです!アメリカも中国も同じキャッシュレス社会とはいえ、体験の点ではこれだけ違います。いかに顧客体験が大事か思いしらされますね。

  • アメリカの支払い待ちが中国では不要!
    • 支払い待ち1:まず担当の人を呼ぶ(忙しく歩き回ってるのでなかなかつかまらない)
    • 支払い待ち2:つかまえて会計をお願いし、伝票を持ってきてくれるまで待つ
    • 支払い待ち3:伝票にクレジットカードを差し込み回収してくれるのを待つ(忙しそうにしてるのでなかなか回収してくれない。目を合わせてアピールする)
    • 支払い待ち4:回収してくれたらクレジットカードの伝票を持ってきてくれるのを待つ

ちなみに中国で観光客が電子マネーを使うには大きなハードルがあります。現地の知人から送金してもらう以外に方法がありません。自分で入金するためには中国の開設した銀行口座が必要になるのですが、4つ銀行を回りましたが就労ビザがないと口座を開設してくれませんでした(2019年9月時点)。ネットでは口座開設できたという記事もあったので管理が厳しくなっているのだと思います。

私は訪中前にネットでいろいろ調べている際に、上海でブログを書いている方を知り、その方のご厚意でアリペイに送金してもらいました。その方に会うために杭州から上海に行き、上海のおすすめスポットを聞き、お金を返しました。本当に感謝です。

最近話題のニューリテール

続いて最近話題のデジタルを活用した小売業態であるニューリテールの体験レポートです。

アリババが運営するスーパー「フーマー」

ニューリテールと言えばアリババが運営するスーパー「フーマー」が話題です。アフターデジタル(日経BP)や新・小売革命(CITIC Press)でも取り上げられています。上海で多数出店しているようですが私は杭州のアリババが運営するショッピングモール「亲橙里」にあるフーマーに行ってきました。

ショッピングモール「亲橙里」の地下1Fにフーマーがある

このフーマーが注目を集めている理由は、スーパー、生鮮EC、倉庫、エンターテイメントが一つになった店舗運営です。私は消費者目線で、清潔感、品揃え、価格、便利さの観点で確認してみました。

清潔感、品揃え、価格

とかく特異な点が注目されるフーマーですが、まず食品スーパーとしての基本が抑えられていると感じました。店には清潔感があり、品揃えも豊富で新鮮そうです。生簀から魚やカニを買って併設しているレストランで調理もしてくれます。価格についてはお手頃感がわからず判断できませんでした。フードコートや飲料については市中のスーパーと変わらない値段でした。

新鮮そうな生鮮食品
値札は全て電子タグ。価格はECと連動する
棚いっぱいの調味料

利便性(便利さ)

次に便利さ。商品を選ぶ、会計する、持ち帰る/配送する、これら全ての点で工夫が凝らされています。こうしたいという事が自然に叶えられるよう、選択肢が用意され、そこへの導線が作られています。

例えば、一ダースのペットボトルを買おうと思った場合、持ち帰るのが大変だなとか迷いますよね。その場合、価格表示にあるバーコードをアプリで読んでそこから注文する事ができます。配送時間は最短30分後から30分単位で夜22時まで選択できます。

「重たいなあ・・・配送してもらお」ということで配送メニューを選択

最短30分で配送。しかも配送料無料。
夜22時まで指定できます。

もし食材の産地が気になればこれもアプリで調べる事ができます。面白いのは調べる商品によってアプリで表示される情報が異なる事です。欲しい情報が表示されます。

例えば、シャンプー。日本のTSUBAKIが高めの値段で売っています。これをアプリでスキャンすると、商品説明のクリエイティブが表示されます。他の製品とどう違うか販売者がアピールでき、消費者はそれを参考にできます。

同じみのTSUBAKI(なんと1600円!)
バーコードをスキャンしてスクロールすると・・・

リッチな商品説明が表示される

次に調味料。すき焼きのタレをアプリでスキャンしてみました。すると、商品説明に加えて、調理例が表示されます。すき焼き、うどんとか。そしてそれを選択すると、レシピが表示され、必要な具材がアプリで注文できます。

すき焼きのタレ発見!
何が表示されるのか試してみると・・・

口コミとメニュー例が表示されます。知らない調味料ならとても参考になりますね。

さらにメニュー例を選ぶとレシピと材料が表示されます。材料はそのままECで買えます。

いかがでしょうか。商品選択、購入をデジタルを使って自然に便利にしている点が面白いです。こういう顧客体験を実現するために、リアル店舗とECサイトの融合や、店舗兼倉庫のオペレーションなど手段が存在しています。手段の前にまず顧客体験に注目する事が大事と思います。

会計は全てセルフです。レジ店員はいません。自分で全商品をスキャンして電子マネーで支払い完了。全商品を支払ったかチェックされません。この割り切りのため設備がシンプルです。

飲食店の顧客体験

次にファストフードや飲食店にみて見ましょう。スマホや店頭ディスプレイでの多様な注文方法や、電子マネーでの支払いなど機能面の特徴もさることながら、注目すべきは顧客体験です。

飲食店では待つことが普通です。注文待ち、支払い待ち、席待ち、商品待ち。これら余計なものを減らして、「飲食を楽しむこと」を突き詰めている点が面白いです。そしてクーポンでのお得感や、シェアして楽しめる店頭や商品の演出によって「満足感」も提供しています。

待たせないというサービスの基本

ファストフード店ではレジカウンターで注文と会計をするのが普通ですが、この注文カウンターがない店が増えています。どう注文するかというと、店頭のディスプレイで注文、もしくは、席につきバーコードを読み取ってアプリで注文です。

友達ときた場合は一緒に店頭ディスプレイで注文する、一人の場合は、席についてアプリで注文する、など好きなように使い分けができます。支払いはアリペイなどで注文時に済ませます(支払い待ちなし)。席で注文した場合は商品を持ってきてくれます。

店頭のディスプレイで注文と支払いができる
友達と一緒に選ぶのに便利
テーブルにあるバーコード
読み取るとスマホからも注文できる
一人ならこちらが便利
スマホで注文するサイトのメニュー
店頭ディスプレイと同じものが表示される

試したのはケンタッキーですが、多くの飲食店が同じ形態になっているようです。今回お世話になった上海で働く方に聞くと、WeChat上でテンプレートを利用してアプリを作れるようになっているようです。決済機能だけなく、上位アプリも提供する仕組みがあるためスケールできているのだと思います。

もう一つの例がOrder to Goで話題になっている「luckin coffee (ラッキンコーヒー)」です。専用アプリから注文して店頭で受け取る方式です。55元(850円)以上の注文なら無料配送してくるようです。アプリが使いやすく、いつものお店でいつもの商品を注文する場合も、出先で近くの店を探し注文する場合もとてもスムーズです。

上海大丸近くのストア
ここはピックアップ専門のストア
アプリから注文して店頭で受け取る

リピートを誘うお得感

初回カスタマーを2回目カスタマー(いわゆるF2)にコンバージョンするのは小売、特にECでとても重要です。フーマーやラッキンコーヒーのように会員にアプリを使ってもらっているので、この2回目を利用を呼び込むために色々な施策が展開できます。フーマーでは一回目を購入後、30分後くらいに通知が来て、次回割引に使えるクーポンが発行されます。ラッキンコーヒーではコーヒー券を2枚以上買うと1枚無料でもらえます。このようなキャンペーンはおそらく期間や店舗などの様々な条件で運用できるようになっていると思われます。

luckin coffeのクーポン
2枚以上買うと1枚無料
フーマーの割引券
店舗で購入した30分後くらいに送られてきた

シェアして楽しむ

店頭ディスプレイや商品の見た目にも楽しませる工夫がされています。百貨店やショッピングモールに入っているスイーツ系の店舗や商品はどれも色使いが鮮やかです。照明をうまく使っています。店舗への集客やネットでの拡散を目的としてか見栄えを重要しています。

こういう店舗と比べるとスタバは地味に感じます。スタバもこれに対応してか、日本やアメリカでは見たことがカラフルな商品をアピールしています。しかし店の内装とアンマッチが否めません。ここはブランドのスタンスが問われるところでしょう。

ここまでのまとめ

予想外に長くなりました。地下鉄やシェアサイクルといった交通事情の紹介や、フーマーの顧客体験の深掘りなど、まだまだ書き足りないことがあります。また今度アップします。

ここまでのポイントをまとめてみます。

  • 支払いを意識させない体験こそキャッシュレスの価値
  • 待たせないことはサービスの基本。この点で中国の飲食店はデジタルをうまく活用している
  • 小売業は商品選びをデジタルで便利にできる。フーマーや飲食店が提供するアプリにはヒントが沢山ある。
  • 店舗デザイン、商品のパッケージングも大切な顧客体験。中国のスイーツ系は斬新。

コメント

  1. Great content! Super high-quality! Keep it up! 🙂

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